割れたガラスのかけらのようにはかなく見える。初氷が一昨日、秋田市のあぜ道で観測された。平年よりだいぶ遅い。空は鉛色の雲が天をふさぐかのようだ。時折でも淡い青空がのぞくとほっとする
▼書店には来年の手帳や日記帳が並ぶ。デザインやカレンダーの配置が異なるなど多くの種類がある。どれを選ぶか悩むのもこの時期の楽しみの一つだ。来年一年間付き合う「相棒」なのだからと次々に手に取ってみる
▼手帳はスケジュール管理以外に日記の役割もある。古い一冊をめくり、忘れられないあの日を見る。２０１１年３月１１日「東北大地震（東日本大震災）午後２時４６分マグニチュード（Ｍ）９」。Ｍ９は後の加筆だ。４日後の状況も記され、不安な思いまでがよみがえる
▼出来事や感じたことをたくさん書きたい人は日記を付けるのだろう。作家の物では永井荷風が面白い。時勢に迎合しない強固な個人主義者の顔が見える。改正治安維持法が公布された１９２８年ごろからは「四字抹消」などの語が目に付く
▼抹消は時に１０行を超えた。時局批判が災いを招くのを恐れて後で削った。だが敗戦４年前に決意を新たにする。「憚（はばか）り恐るる事なくこれを筆にして後世史家の資料に供すべし」。記録者として妥協のできない真実の営み。それが荷風の日記だった
▼今日では思うことを存分に書ける。その平和がありがたい。新しい手帳、日記帳が一つでも多くの心躍る出来事で埋まるよう願わずにはいられない。
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December 07, 2020 at 07:20AM
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北斗星（１２月７日付） - 秋田魁新報
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