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浮世絵+グラフィティのアーティストをロサンゼルスに訪ねる──画人フジタ、という男【後編】 - GQ JAPAN

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6. Gajin Fujita

ボイルハイツ生まれのアーティスト、ガジン・フジタ。

2017年、ロサンゼルスの彼のスタジオにて。

© Robert Rossi

ガジン・フジタのアート世界

48歳のガジン・フジタは長年、職業的なグラフィティ・アーティストであったが、10年ほど前から、LAダウンタウン周辺のアートシーンが急成長したその波頭に立ち、ここ5年にいたっては、地元の大スターと呼ばれるまでになった。西洋と東洋、最先端と前近代、などなどの多種多様なシンボルを取り混ぜて渾然一体の絵画表現に仕立てあげる独特のアート技法は、遊園地によくあるゆがんだミラーの前に鑑賞者を立たせるがごとくで、ガジン・フジタはいわば、そのミラーを世界に向けて抱えている。こうした異種混交のアプローチを、彼はヒップホップになぞらえ、過去の作品群をサンプリングして未来を構築し、伝統をねじ曲げて型破りなものを作り出すのが自分のやり方なのだと力説する。

ガジンは1972年に、ロサンゼルス東郊のボイルハイツというヒスパニック系労働者階級が多く暮らす街に生まれた。両親は1970年にここにやってきた日本からの移民である。美術学校に通うことを望んでいた父親だったが、1年ほど学んだ時点でガジンが生まれ、夢を断念してフルタイムの仕事に就いたという。

7. Soho Warehouse

ニック・ジョーンズの手がける会員制クラブ「ソーホーハウス」のひとつで、ロサンゼルスのアーツ・ディストリクトに近ごろ新規開店した。

7. Soho Warehouse

© Carmen Chan

「ぼくたちはマイノリティの中のマイノリティでした」と、ガジンは柔らかな語り口に、紛れもないLAアクセントをにじませて語る。「ボイルハイツという場所は多層的な民族集団が波状に到来したことでできあがった不思議な街でしてね。ロシア系ユダヤ人もいれば、メキシコ人などのヒスパニック系もいて、そして日本人もいるという次第です。ぼくの少年時代にはまわりじゅうがメキシコ人だらけで、小学校では96〜97%くらいの感触でしたね。ぼくたち兄弟だけが日系人で、ずいぶんいじめられもしましたが、メキシカンは心の温かい人たちでもあって、クリスマスに自宅に招かれてタマルを振る舞われたのはいい思い出ですよ」

小学生の頃にはアートへの興味などはまるでなく、近所の“問題児”たちとバスケットボールやアメフトをして遊び回っていた。その後、より専門的な“マグネットスクール”(魅力的なカリキュラムのため広範囲から子どもたちを磁石のように引き付ける学校)へとバス通学をするうちに絵画に目覚め、夜になるとスプレー缶を携えて近所でグラフィティを描くようになった。12歳のガジンはそんな少年だったのだ。

8. Dover Street Market

LAダウンタウンのクリエイティヴ・シーンの活況に華やぎを添えることになったのが、このコンセプト・ストア「ドーバー ストリート マーケット」だ。

「グラフィティの粗野な美学にすっかり痺れてしまいました」とガジンは当時をふり返る。LA地区のあちこちのコミュニティにスプレー缶を持って出かけていくうちに、大文字の丸文字による表現にもさまざまな主張や違いがあることに彼は気づいた。

「地元の大学を卒業したのが1997年でしたが、その前年に父が亡くなり、仕事を探さねばならないことは自覚していました。母も養ってあげたかったですしね」

9. Entrance of Soho Warehouse

館内は特別注文のグラフィティに彩られていて、ストリート・アーティスト、シェパード・フェアリーの作品もそのひとつだ。

そんな折、ガジンに幸運が訪れる。大学卒業生向けの訓練プログラムによってラスヴェガスにあるネヴァダ大学に進むことができたのだ。そのネヴァダ大学で講師から聞かされた「アートは人々が持っているアートへの期待をぶちこわすものでなければならない」という言葉が、彼の人生に転機をもたらす。

「まさしく頬を平手打ちされた気分でした。その夜、ちっぽけな自分のスタジオで考えをめぐらせました。“人々のアートへの期待をぶちこわす”ということについてなら、ぼくにはすでに武器がありました。グラフィティです。ですが、スタジオで描いてしまっては、真の“グラフィティ”とは呼べません。ストリートに出かけて警官の眼をかいくぐって描くものではないからです」

10. Zinc Cafe & Market

ダウンタウンの人気ベジタリアン・レストラン。デリの種類はセレクトに迷うほど豊富で、新鮮な野菜をたっぷり摂ることができる。7時からオープンし、朝食が特に人気。

10. Zinc Cafe & Market

そこでヒントになったのが、日本のアンティーク品の修復を手がけるようになっていた母が自宅に持ち帰ってくる浮世絵だった。素朴な木版画で精緻をきわめる色彩豊かな表現をなしうるということが驚きだった。ガジンはサムライや日本古来の文化に心酔するようになり、『スタートレック』や『スター・ウォーズ』にも通じる豊かなキャラクター性をそこに見いだしていった。

「1987年に家族で日本を旅行したときに京都の金閣寺で撮った写真があるのです。アルバムでその写真を眺め返して、はっと思い至りました。この金閣寺にスプレーでグラフィティを描くやつがもしもいるなら、それこそ“ぶちこわし”の極みなんじゃないだろうかと」

11. Warner Music’s New Office

1912年に建てられた米自動車メーカーのフォードの古い工場を改築してできた

ワーナーミュージックの新しいオフィス。開放的で先進的なデザイン。

その気づきが、金箔や銀箔の上に浮世絵風の人物を描き出し、グラフィティ流の文字列やさまざまなロゴをまわりにちりばめるという独特の技法につながっていく。

「ヒップホップ、(土方巽らの)舞踏ダンス、ロサンゼルス・ドジャース、そうしたすべてがフジタのアートに息づいている」と、LAタイムズは2007年に評している。「大蛇、金魚、菊の花、ゲイシャ、武者、それにスポーツのロゴといったものが入念に手描きされ」、それにヤシの木とストリートのグラフィティが重なる。そこには、現在のロサンゼルスがありありと描き出されているというのだ。

12. Shore Line Duel

「海岸での戦い」というタイトルが付けられた作品(2004年)

© Jeff McLane

「ぼくは異邦人のなかの異邦人です。日系ですが生まれた時からアメリカ人で、いまの日本のことは何も知らないのに、それでも日本の文化に深い親しみを感じるのです」とガジンは言う。

そしていま、ソーホークラブのプールバーでは、地元のクリエイティヴな面々が身体を内側からきれいにするというムーン・ジュースを啜っている。なんともロサンゼルスらしい光景ではないだろうか。

© Jim McHugh

ガジン・フジタ
アーティスト
PROFILE
1972年アメリカ・ロサンゼルスに、日本人の両親のもとに生まれる。1990年にイースト・ロサンゼルス・カレッジに進学、1997年にオーティス・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで美術学の学士号を、2000年にネヴァダ大学でその修士号を取得。

Words ディラン・ジョーンズ Dylan Jones
Translation 待兼音二郎 Ottogiro Machikane

Jim McLAne (Portrait, Shore Lane Duel), In Courtesy of Sohohouse, Dover Street Market, Zinc Café & Market, Warner Music’s New Office

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June 19, 2020 at 06:11AM
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