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アーティスト3人で『ジュディ 虹の彼方に』を観たら、芸事に生きることへの考えがぶつかり合った(エムオンプレス) - Yahoo!ニュース

邦ロック界で一二を争う映画論客とも言われるBase Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。

【動画】『ジュディ 虹の彼方』予告編

今回は映画『ジュディ 虹の彼方』を観賞。3人の評価は賛否が分かれていますが、アーティストの半生を描いた作品だけに、アーティストだからこその仕事哲学にも話が繋がっていきます。

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【みんなの映画部 活動第62回[前編]】
『ジュディ 虹の彼方に』
参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、世武裕子、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)

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■小出部長は満足、ただ世武、レイジは……

──『みんなの映画部』第62回です。今回は『ジュディ 虹の彼方に』です。『オズの魔法使』(1939年)や『スタア誕生』(1954年)といった代表作を持つ波瀾万丈の人生を送った女優・歌手、ジュディ・ガーランド(1922年生~1969年没)の伝記映画です。レネー・ゼルウィガーが見事アカデミー賞主演女優賞に輝きました。『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年)の頃は“レニー”っていうカタカナ表記でしたが、ある時期から実際の英語発音に近づけて“レネー”って呼びますね。

小出:たしか彼女自身が「レニーじゃなくてレネーなのよ」って訂正を申し出た感じなんですよね。

──そう、ただ“レネー”になってからキャリア的に低迷していたんですが、最近またあらたなフェーズで復活してきました。まずは小出部長から恒例のひと言をお願いします。

小出:僕は素晴らしいと思いました。ただレイジはちょっとテンション低かったね。

レイジ:内容に没入できなかったんですよ。音のミックスが気になっちゃって。最初の段階から声の大きさとピアノの音量のバランスがあまりにも違いすぎて、演奏してる感じが全然しない。あえてなのかな? っていうくらい薄っぺらくて、エアー感がなさすぎるというか。これMIDI音源なんじゃないかって思うぐらいつるつるした演奏だったから。

世武:私も既存のCDを流してるのかなと思って観てたけど、でもレネーが実際に歌ってるんだよね。今パンフレット見たらさ、一年かけて練習してとか書いていて。せっかく本人が歌ってるのに、演奏に当て振り感あると作品の持つリアリティーに影響するよね。

レイジ:遠目でぼやけてるけど、ドラムの人の演奏とかまったく合ってない。音としてはハイハットしか叩いてないのに、超シンバル叩いてるし(笑)。結局、テーマ的には音楽とお客さんの間に生まれる愛を信じる、みたいなことを言ってるのに、いちばん大事な音楽のポイントでこんな雑にやっちゃうんだみたいなところで結構萎えちゃった感じ。

小出:なるほどね。たしかに、ライブシーンも出てる音とマイクと口の距離感が合ってなかったし、いろいろ気になるのはわかる。

レイジ:そう。ドラマ部分は熱いのに、そこの詰めの甘さとかは別にいいんだっていうところ? 揚げ足取るみたいになっちゃってすごいイヤだけど、率直な感想がそこでしたね。

世武:私もレイジくん寄りかなぁ。そういう映画的なご都合主義も含めて、ちょっと古いなぁって思ったのが率直な感想。今の海外映画って細かい部分も隙がないというか、全方位的にクオリティがめちゃくちゃ上がってるし、特に今年に入ってから気迫を感じる良作が本当に多くて、「なんか映画、新しい時代きたかもな」って思ってたんですよ。その流れで観たせいか、ちょっと乗れなかった感じがある。別にテーマが今っぽいかどうかとかじゃなくて、作り方として今の水準っぽくないというか、なんで2020年にこういうのが出てくるかな? っていう奇妙さは正直あった。ジュディさんのこと、私全然知らなかったのもあるのかなぁ。ミュージカルとかもあんまり親しみがないから。

レイジ:俺も知らなかったっす。

世武:だからなのかもしれないけど、いまいち彼女の魅力が入ってこなかったんよね。破天荒なスター像もちょっと古いっていうか……まあ実際に昔の人だから当たり前なんだけど(笑)。

レイジ:ただ俺は『ジャージー・ボーイズ』(2014年/監督:クリント・イーストウッド)を観たときも、フォー・シーズンズ(1960年代に活躍したアメリカのボーカルグループ)のことをまったく知らなかったんですよ。あれも古い話ではあるけど、めちゃくちゃ乗れたんです。音楽映画としても最高だったし。

世武:つまり乗れるかどうかは、あくまで映画の作り方の問題ってことだね。彼女の生き方の問題じゃなくって。

レイジ:うん。

■芸を極めるため、残酷に追い込まれた時代

小出:ふたりの言うとおり、僕も音楽シーンのディテールはたしかに気になったんですよ。ただ時代背景を踏まえたショービズ業界のドラマとしては相当充実しているし面白いと思ったの。
ジュディ・ガーランドは子役からキャリアをスタートしていて、この映画はその時代から始まる。『オズの魔法使』で主演のドロシー役をやっていた少女の当時は第二次世界大戦の頃ですよ。劇中の回想シーンからも、イケイケでマッチョなアメリカが伺えますよね。実際、ジュディが所属していたMGMは、戦中にプロパガンダ作品も作ってたりしてた。ジュディは、その時代のエンターテインメント業界におけるハラスメントの被害者ですよね。具体的には描かれてないけど、セクシャルハラスメントもおそらくあっただろうと思わせる。

世武:ちょっと匂わせてたシーンもあったよね。

小出:こないだ公開された『スキャンダル』(2019年/監督:ジェイ・ローチ)っていうFOXチャンネルのプロデューサーによる局アナへのセクハラ騒動の実話を描いた映画があるんですけど、近い構図でした。でも、時代が時代だけにだいぶ残酷ですよ。ジュディの場合は当時まだ合法だった覚醒剤で起こされ、睡眠薬で眠らされ、睡眠や体重をコントロールされている。キャプテン・アメリカみたいですよね。

──「スーパーソルジャー計画」だ!

小出:エンターテインメントの超人として育てられたわけでしょ、少女時代のジュディは。

レイジ:たしかに。年代的にもぴったり合いますね。

小出:まだ自我が芽生えきる前の時代からコントロールされて、業界のオトナたちに搾取されてきたわけじゃないですか。その子がだんだん大きくなるにつれて、過度な飲酒癖なんかも加わってしまって、アンコントロールな状態になってしまうという。未熟な段階から囲われて育ってきたから、社会常識とかも身についていない。ただ、ひとたびステージに立てば圧倒的なわけですよね。家庭でも仕事の人間関係でもうまくやっていけないまま大人になっちゃって、だけどステージの上で光り輝くパフォーマンスを見せるってことで、彼女はどうにか生きてるというね。

──芸事をやっている人間の濃厚な性(さが)や宿業を見せてくれる。

小出:その究極形って感じですよね。極端なエンターテインメントの光と影。だいたいジュディ、あそこまでの睡眠障害を抱えてたら、普通は歌えないですよ。ダイレクトに声に影響が出ますから。っていうことは、やっぱりケタ外れに才能あるんですよね。身体的なポテンシャルがまずすごいんだろうなと。生まれ持ってのものなのか、スーパーソルジャー計画の賜物なのかはわからないけど。

──タバコ吸ってても歌えちゃう。

小出:できちゃう。酒飲んでも、不眠でもできちゃうっていう。ただ、できちゃうがゆえの悲しさというか。その才能やポテンシャルの巨大さゆえに、壮絶で悲劇的な人生を歩んじゃってる。もしどっかで一回壊れきって歌えなくなっていたら、むしろ引退して穏やかな人生が待っていたのかもわからない。でも壊れなかったから、何度も何度もステージに戻る。すごい悲しいっていうか皮肉だなとも思ったし。

世武:いろいろあっても結局ステージしかないっていうのは、私、音楽家って本質的にそういうもんだと思ってるから、そこがそれでしかなかったところには安堵感があった。個人的には、本当に才能がある人には“ショー・マスト・ゴー・オン”的な精神や宿業を背負っていてほしい、っていうのはちょっとあるかな。

小出:でも一方で、今ハリウッドの映画業界では、労働環境をもっと改善していこう、みたいな動きがすごい活発になってきてる。エンターテインメント業界の働き方改革ね。そんな現在の風潮のなかで観ると、やっぱりとりわけ異様にうつるじゃん、このジュディの人生が。

世武:でもさ、もし平穏で健やかな日々を過ごしていたら、いくら才能のある人でも異様な迫力みたいなものって出るのかな? って思ってしまったりもするよね。

小出:わかる。追い込んで追い込んで、その先の極地に自分を追い込むことで会得したパフォーマンスや作品のすごさ──それにやっぱり僕らは憧れてきたし、芸事をやる人間の究極なんだろうなって思う。だけどその反面、もしかしたら健やかな日常があるなかで才能を引き出す方法や環境を、っていう発想に至っていないだけで、極地に到達する別のやりかたがあるんじゃないか? とか考えたりもするんだよね。今の海外の映画や音楽を見てるとそんな気もしてくる。そういう意味で、世界的に過渡期なのかなって思ってるところがあって。

世武:過渡期っていうのはちょっとわかる気がする。それを確立していくのにまだ10年とか20年かかるかもしれないけど。

レイジ:発信するインフラとして、インターネットで他者と携わらなくてもエンターテインメントできるようになったから、たしかに今はこいちゃんの言う時代にだいぶ近づいている気がする。家でiPhoneのアプリで曲作ってサウンドクラウドにアップしちゃえば、世界中の人が聴けて売れちゃう場合があったりとか。ただ手軽になったぶん、やっぱり音楽のアートフォームとしての強度はめっちゃ下がったと思うんですよ。だって1930年代からスターだった人の話が2020年に映画化されてるわけじゃないですか。でもたぶん、今の10代のスターであるビリー・アイリッシュの伝記映画が100年後とかに映画化されるとはあまり思えないですよね。

小出:たしかにそうだね。

レイジ:なんかね、リアルで10代の子とかに聞いても、ブームの去るスピードが超速いんですよね。

世武:消費されてるよね。発信しやすくなったから消耗するのも速くなってる。良いところも悪いところもあるわけだけど。そういう意味でも過渡期なんだと思う。

TEXT BY 森 直人(映画評論家/ライター)

※小出部長がこの作品のもうひとつ大事な意味に触れた[後編]に続く

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March 25, 2020 at 04:53PM
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