小石を拾って男が語り掛ける。「こんな小石でも何か役に立ってる」「これが無益ならすべて無益だ」。娘はその小石を手にしてやっと笑顔になる。この映画は何度見ても、ここではっとさせられる
▼イタリアのフェデリコ・フェリーニ監督「道」の一場面。娘は貧しさのため旅芸人に売られた。料理は駄目、芸も下手。役立たずの自分を嘆く。そこに別の旅芸人が現れて小石の例えで慰める
▼この世界にあるものはすべて意味がある、君にも大切な役割があるんだ。日頃見向きもされない小石の話はそう伝えている。こうも解釈できそうだ。さまざまなものや価値観で世界は成り立つ、その多様性が大事なんだ、と
▼多様性を考えるとき、「自粛警察」という動きに不安を覚える。新型コロナウイルス対策の名目で営業自粛を迫る嫌がらせだ。都の認める無観客ライブを先月開催、インターネットで配信した店に「次発見すれば、警察を呼びます」との匿名の張り紙があったという
▼県外ナンバーの車へのあおり運転なども全国で発生。緊急事態宣言が解除された本県など３９県でも、一部を除いて県境を越える移動の自粛が続く。店舗や車への嫌がらせ行為自体、そもそも許されない
▼多様性の反対にあるのは一つの価値観が社会を占め、人々がそれに向かって突き進む状況だろう。自粛はあくまでも自分や周囲を守るためだ。正義を振りかざし他者に強いるようでは自粛とは言えない。小石の例えは「警告」でもある。
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May 19, 2020 at 07:35AM
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北斗星（５月１９日付） - 秋田魁新報
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