酒席の会場まで、だいぶ聞こし召した知人男性を車で迎えに行ったことがある。土産とおぼしき一升瓶を胸に抱え、男性は後部座席ですぐに寝入った。家に着いて声を掛けてもぴくりともせず、起こすのに一苦労した記憶がある
▼それ以上に厄介だったのが一升瓶。わらで栓をした口の部分から、白い泡がぶくぶくと湧き出していた。座席はびしょぬれ。「よもや、どぶろくでは」。感づいた時には後の祭り。車内にはしばらくの間、発酵した米の甘い香りが充満した。どぶろくが湧いたら大変だと聞いていたが、自分がその被害者になるとは思わなかった
▼ＪＲ東京駅でそんな昔話を思い出した。地下１階に「酒造場」が設けられ、世界でも例がない駅ナカでの醸造が始まった。わずか２３平方メートルの空間で洗米から発酵、瓶詰めまでを行う。初めて仕込んだのはどぶろくだった
▼隣のバーでは試飲もできる。コロナ後の外国人客需要を見据えた戦略に思えた。これでどぶろくも世界進出か―。そんな期待を抱きつつ、ぴちぴちとした口当たりや酸味を楽しんだ
▼どぶろく造りは稲作と同じぐらい長い歴史があるとされる。明治政府の自家醸造規制を機に厳しく取り締まられたが、「どぶろく特区」の広がりで最近は口にする機会が増えた
▼県内にも１３の特区がある。その地域ならではの素材を加えたり、飲み口や風味に変化を持たせたりする余地はまだまだありそうだ。観光振興の呼び水として個性に一層磨きをかけたい。
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October 13, 2020 at 07:28AM
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北斗星（１０月１３日付） - 秋田魁新報
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